さて、今回も技術士二次試験で丸ごと使える解答例テンプレートを紹介します。
今日のテーマは「激甚化する風水害」です。
技術士試験で言うところの、必須科目Ⅰまたは選択科目Ⅲにおける頻出問題です。
近年、気候変動に伴い、短時間で1ヶ月の降雨量に相当する量が一気に降り、河川の洪水や土砂崩れが頻繁に発生しています。
このように激甚化する風水害が喫緊の課題であり、今後さらなる気候変動も踏まえた対策が不可欠です。
問題文
近年、降雨量の増加と短期化等、異常気象により激甚化する風水害が多くの被害をもたらしている。(中略)このように激甚化する水害に対して、以下の問いに答えよ。
(1) 風水害による被害を防止・軽減するための課題を多様な観点から3つ述べよ。
(2) 抽出した課題のうち一つを取り上げ、それについて解決策を述べよ。
(3) 上記解決策を実施した上で新たに生じるリスクとその対応策について述べよ。
(4) 上記の業務遂行にあたり、技術者として必要となる要件や留意点について述べよ。
必要な知識
解答文章テンプレートを見る前に、まずは解答のポイントを整理しましょう。
解答には激甚化する水害と既存のインフラ状況を踏まえた対策に関連して、少なくとも以下の知識が必要となります。
- 既存交通ネットワーク、ライフラインの不足
- 既存インフラの老朽化
- 情報伝達の遅れによる被害拡大事例
- 道路ネットワークの強化方法
- 土砂災害の事前対策
- 避難場所の拡大
- 増水時の橋梁関連の被害リスク
- 無電柱化の促進
他にも課題や対策は考えられますが、今回は上記の課題を挙げて対策を考えることにしました。
骨子
既存インフラの能力不足
例えば河川堤防は、必要な流量を流すことができるような河積を確保するよう、高さと幅が設定されています。
その計画最大流量は、計画時点の降雨量や集水範囲に基づいて決定されます。
近年の降雨量増加や、これまでの1ヶ月に相当する量が数時間で降るなどの降雨の短期化によって、河川に求められる計画最大流量は大幅に増加しています。
つまり、既存の河川幅や高さは、現在の気象条件からすると不足しており、インフラの再整備が必要なのです。
具体的に必要なインフラ整備については、後述の解決策の項目で取り上げて説明します。
既存インフラの老朽化
高度経済成長期は日本が最も裕福だった時代であり、様々なインフラを大量整備しました。
これら高度経済成長期に大量整備した社会資本ストック(インフラストック)は現在及び今後一斉に更新期を迎えます。
具体的には、2024年現在で道路橋の約30%は整備から既に50年以上経過しています。
建設後50年を超えるインフラは今後20年間でさらに加速度的に増加していきます。
それらのインフラに崩壊等の大きな不具合が生じる前に、更新・修繕が必要です。
一方でインフラ整備に使える予算は限られており、優先順位をつけたり、なるべく費用のかからないような維持管理手法が求められています。
これからの時代に有効な維持管理手法として、以下のようなものがあります。
優先順位づけ
構造物の劣化度を定期的に計測し、そのデータや構造物の重要度、利用頻度等から、優先的に整備するインフラを選定します。
一方で、優先度の低いインフラについては廃止や機能の転換により、更新コスト低減を図ります。
予防保全型のインフラメンテナンスへの転換
現在の維持管理手法は、ひび割れや崩壊等、不具合が生じてから補修・修繕を行う「事後保全型」のインフラメンテナンスです。
しかし、これだと重大な事故が発生した後で対策することになりますし、修繕時に大きなコストがかかってしまいます。
これに対し、老朽化状況を計測し、データベース化して管理することで、不具合発生前に補修・補強する「予防保全型」のインフラメンテナンスでは、補修回数は増加するものの、一回あたりのコストが小さく、インフラの全供用期間にわたるトータルコストは予防保全型のインフラメンテナンスの方が安くなるとされています。
国土強靭化のためのデジタル化の推進
まず、国土強靭化とは、地震や津波、台風等の自然災害に強い国づくりを指し、災害発生時の人命保護や被害の最小化、その後の迅速な復旧復興を図る考え方です。
「平成27年9月関東・東北豪雨」と呼ばれる豪雨により、鬼怒川が氾濫した際、避難勧告が遅れたことにより住民の避難が遅れ、大きな被害が発生しました。
この経験から、遅れのない対応及び災害現場における無人施工等においてデジタル化が有効であるとして推進されています。
デジタル化の具体例は以下の通りです。
ICT建設機械による施工の補助
ICT建設機械は、例えば掘削用のバックホーに目標掘削深さを表示し、オペレーターの作業を補助するものです。
オペレーターの経験不足や不注意による施工ミス、品質不良を防止できるため、現場の熟練技能者の高齢化と引退が進む今後において、若くて経験の少ない技能者でも同等の品質を確保するために有効です。
5Gを用いた施工の遠隔化
5Gにより、遠隔から遅滞なく指示を出し、施工することが可能になりました。
遠隔施工が進むことで、どうしても人の目と判断が必要な現場についても無人で施工することが可能です。
ロボットを用いた施工の無人化
ロボットを用いることで、現場に人が赴くことなく計測や施工が可能になりました。
東日本大震災後の復興活動でも大きく貢献しました。
AIを用いた施工の自律化
AIが自ら判断することで人手なしである程度の施工を行うことができます。
人の判断が必要な場面や管理のために、カメラが搭載されていることが多いですが、今後のAI技術の進展による完全な自律施工が期待されます。
また、避難勧告の遅れ改善のためには、早期の危険予測が重要です。
特に2020年代に急増している九州豪雨は線状降水帯に起因するものが多く、線状降水帯の予測精度向上が被害防止に非常に有効であり、ここにAI技術による予測精度向上とデジタル化促進による速やかな情報伝達が求められます。
対策
交通ネットワークの整備・強化
日本はインフラ大国であり、道路網は完璧に思えますが、土砂崩れのニュースで道路封鎖がよく報じられているように、災害時の交通ネットワークはまだ不完全です。
災害時の交通ネットワークについて以下のような対策があります。
- 災害発生後、概ね1日以内の緊急車両通行、1週間以内の一般車両通行が目標です。
- 土砂崩れにより道路が寸断された場合に備え、往路と復路の2車線道路を4車線化し、2車線が寸断しても残りの2車線で往路と復路を確保するような、道路の寸断対策があります。
- 高速道路等の高規格道路は緊急時の交通ネットワークとして有効ですが、高規格道路同士が繋がっていないことで、途中の通行が困難、もしくは通行に時間がかかってしまいます。これを高規格道路のミッシングリンクと呼び、ミッシングリンク解消が課題です。
- 高規格道路の寸断防止対策として、高規格道路と並行する代替道路を整備し、ダブルネットワーク化することも有効です。
のり面崩壊対策
土砂崩れ等ののり面崩壊で、土砂が道路を塞いでしまうことで道路が寸断される恐れがあります。
寸断時の代替道路の整備によるダブルネットワーク化も重要ですが、山地では土地形状のために並行する道路の整備が困難な場合があります。
したがって、のり面崩壊時の避難に加えて、のり面崩壊を予防する対策が必要です。
のり面対策は以下の記事で紹介しているので、ぜひチェックしてください。
軟弱地盤上の盛土施工における留意点と対策【工法ごとの問題点と対策】
ここでは対策を早期に実施するための脆弱度調査に着目します。
のり面の崩壊は、地盤の滑りに対する不安定現象に起因します。
地下水位が高くなって地盤が緩くなったり、そもそも傾斜が急だったり、のり面上方に大きな荷重が加わったりした際に、のり面の釣り合いが崩れて一部が滑り落ちます。
対策として、レーザープロファイラやドローン調査によって定期的に地盤の形状を計測・データベース化し、形状変化から滑りの予兆を見つけ、事前に敷網工法等ののり面崩壊対策を実施します。
高速道路の路肩を避難所として利用
東日本大地震では、高台への避難が命を守る鍵となりました。
高台避難所の確保のために、高速道路の路肩スペースを有効活用しようという取り組みが進められています。
高速道路の路肩までスロープを設けて、高台への避難経路を確保します。
洪水時の橋梁倒壊による二次被害対策
豪雨・洪水時には、橋梁倒壊による二次被害の発生リスクがあります。
発生メカニズムとしては、河川の増水により橋梁基礎の根本部が洗掘され、支持力不足やバランスの崩れ、基礎の傾斜によって橋梁が倒壊し、倒壊した橋梁部材が下流へ流され、下流側で構造物に衝突するというものです。
流れてくる部材はその重量が大きく、かつ速度も速いため非常に大きな衝突エネルギーを持っていて、一般家屋程度は裕に破壊します。
根本部にコンクリートを打設する等の洗掘対策とともに、異常を検知するセンサーを設置する対策が有効です。
無電柱化の推進
電柱も橋梁と同様に、倒壊すると大きなエネルギーを持って周囲の構造物を破壊します。
特に東京では無電柱化範囲は大きく拡大しており、この取り組みが進んでいることは皆さまも実感されているのではないでしょうか。
ただし、データとして見ると令和3年度末時点では、最も無電柱化が進んでいる東京でも無電柱化率は5%程度であり、今後の無電柱化推進が重要です。
問3、4
問い3,4については関連記事にて解説するものとし、ここでは割愛します。
解答例テンプレート
上記を踏まえた解答例テンプレートがこちらです。
(必須科目Ⅰまたは選択科目Ⅲは答案用紙600字×3枚です)
(1)風水害による被害を防止・軽減するための課題
1.激甚化する風水害に対するインフラ整備
人命や財産を守るためのインフラ整備、交通ネットワークやライフラインの維持が課題である。
2.既存インフラの老朽化対策
トータルコストを見越し、優先順位づけ、および予防保全型のインフラメンテナンスへの転換も課題である。
3.国土強靭化のためのデジタル化の推進
災害現場での5G・AIを利用した無人化機械やICT建設機械の導入・遠隔操作での復旧支援、線状降水帯の予測精度向上や住民への速やかな情報伝達が課題である。
(2)抽出した課題に対する解決策について
1.激甚化する風水害に対するインフラ整備について解決策を述べる。
1.道路ネットワークの整備・強化
災害発生後、概ね1日以内の緊急車両通行、1週間以内の一般車両通行を目標とする。2車線道路の4車線化により、道路インフラ設備の寸断を防止する。高規格道路のミッシングリンク解消や高規格道路と並行する代替道路整備等、ダブルネットワークの整備を行う。
2.のり面崩壊予測と土砂災害対策
道路区域外からの土砂流入による被害を予防するため、レーザープロファイラやドローン調査を行い、優先的に対策を行う場所を選定する。土砂災害防止として、敷網工法等の切土・盛土対策を行う。
3.高速道路の路肩を利用した避難場所の整備
既存の高速道路路肩を洪水時の避難場所として整備する。高台までの避難経路としてスロープや階段を整備する。
4.橋梁の異常検知や洗堀防止対策
河川の増水時、橋梁根元部の洗堀により傾斜や倒壊が予想される。河床の洗堀防止対策を行うとともに、構造物の異常を検知するセンサー等を設置する。
5.無電柱化により倒壊に伴う道路閉塞等を防止する。
(3)新たに生じるリスクとその対応策について
1.コストがかかる
インフラの整備を行うに当たり、財源の確保が課題となる。税財源だけでは限界があるため、民間資本を利用したPFIを行い官民一体となった対策を進める。
ライフサイクルコスト、メンテナンスコストを考えた材料や工法を選定する。
2.整備に時間を要する
インフラ整備と、それを行うための人員確保や資材調達には時間を要する。ハザードマップを用いた危険度を把握・優先順位付けの上、整備を行う。円滑な整備のための法整備を官民連携して行う。
3.人材の確保
少子高齢化や建設技能者の高齢化により人材不足である。ICT活用による生産性向上、週休二日制の実現等労働者の処遇改善による建設業の魅力向上に伴う新規入職者の確保・若手中堅技能者の離職防止を行う。規格の標準化によりプレキャスト部材や工場製品の価格低下・導入を促進する。上記生産性向上施策導入費用を見込んだ積算基準整備と、それによる適切な工期設定・施工時期の平準化による必要人材の低減を行う。
(4)業務遂行にあたり、技術者としての要件や留意点について
1.技術者倫理
常に公益の確保を意識しながら遂行する。
現地の法令・ルールを十分に調査して遂行する。
2.社会の持続可能性
実施に伴う環境への影響を最小限とするよう材料や工法剪定、転用計画を行う。
ライフサイクルコストやメンテナンス性を考慮した技術選定を行う。
なお、得点に繋がる用語を太字で示しました。技術士試験はキーワードに基づいた加減点方式と言われており、得点に繋がるキーワードを入れ込むことが重要です。
以上今回は技術士二次試験の課題ⅠやⅢの頻出問題である激甚化する風水害対策について解説とともに解答テンプレートを紹介しました。
他の課題についても解答テンプレートを紹介していますので、ぜひ関連記事欄からチェックしてみてください。