まず、グラウトと聞くと、ひび割れ補修やトンネルのロックボルトの定着等を想像される方も多いでしょう。
一方、グラウチングとは、ダム工事における薬液注入工法を指す土木用語です。
この記事では、ダム工事におけるグラウチングの基礎知識をとして、グラウチングの種類と特徴、施工方法を紹介します。
グラウチングとは
グラウチングは英語表記で「grouting」で、「注入する」という意味です。
地盤にセメントやエポキシ樹脂を注入することを表現するもので、基本的には土木用語としてしか使う機会のない単語です。
土木用語的な意味は、「グラウチングとは、地盤・構造物のひび割れ補修を目的として、セメントやモルタルを注入する工法のこと」です。
また、このときの注入材料をグラウトと呼びます。
高専や大学の講義では、「ポストテンション方式のPC鋼材を配置した後、シースにグラウトを充填する」というときにグラウトが登場しましたよね。
ちなみにグラウチングのことをグラウトと呼ぶこともあり、グラウトは材料であり工法の名称としても使われています。
また、グラウチングは薬液注入工法の一つなので、「薬液注入」と総称で呼ぶ人もいます。
グラウチングの目的
グラウチングの目的は、基本的に遮水です。(外部からひび割れ部への水の侵入を防止)
ダム工事ではダム堤体と地盤の境界への水の侵入を防止します。
ダムにおけるグラウチングの重要性
ダムにおけるグラウチングの重要性について詳しく解説します。
ダム堤体と地盤の境界に水が侵入すると、揚力が働いて水がダム堤体を押し上げる挙動となり、ダム上流側に上向きの引張力が発生します。
上向きの引張力により、ダムが下流へ向かうような転倒に対する安定性が低下してしまいます。
そのため、ダム堤体とダム基礎地盤との境界を遮水するためにグラウチングを実施します。
グラウチングの種類
ダム工事におけるグラウチングには、下記の種類があります。
- コンソリデーショングラウチング
- カーテングラウチング
- ブランケットグラウチング
- コンタクトグラウチング
- 補助カーテングラウチング
コンソリデーショングラウチング
コンソリデーショングラウチングには、遮水性改善を目的としたものと、強度の補強を目的としたものの2種類があります。
遮水性改善を目的とするコンソリデ―ショングラウチング
コンクリートダムの着岩部付近において、カーテングラウチングとあいまって浸透路長が短い部分の遮水性を改良します。
コンソリデ―ショングラウチングは、施工する孔長が比較的短いのが特徴です。
重力式コンクリートダムでは、堤体の上流端から基礎排水孔までのうち浸透路長の短い部分、及び堤体厚の薄い部分を対象に施工します。
アーチ式コンクリートダムでは、着岩部付近全域を対象として施工します。
ダム基礎地盤のグラウチングでは、浸透路長の短い部分の遮水性を改良することで、浸透流を抑制することが重要です。
特に着岩部付近ではカーテングラウチングの注入圧力が小さくなるためセメントミルクが隅々まで広がりにくく、ここでコンソリデ―ショングラウチングが必要になります。
強度の補強を目的としたコンソリデ―ショングラウチング
断層や破砕帯等、地盤の弱部を補強します。
断層や破砕帯では不均一な変形によりダム基礎に水みちを形成し、浸透流を発生させたり、ダム堤体の安定を損なうリスクがあり、これを防止するためにコンソリデ―ショングラウチングが必要になります。
カーテングラウチング
カーテングラウチングとは、ダムの基礎地盤及びリム部において、浸透路長が短い部分・貯水池外への水道となるおそれのある高透水部の遮水性を改良する目的のグラウチングを指します。
カーテングラウチングは、その孔長が長いのが特徴です。
※リム部:ダム堤体敷き両側外側の部分を指します(下図参照)。リム部を対象としたカーテングラウチングをリムグラウチングといい、必要に応じてリム部にトンネル(リムグラウチングトンネル)を掘ります。リムグラウチングは地上またはリムグラウチングトンネルから施工します。
ブランケットグラウチング
ブランケットグラウチングとは、ロックフィルダムの基礎地盤において、カーテングラウチングとあいまって、浸透路長が短いコアゾーンとの接触部付近の遮水性を改良するグラウチングを指します。
着岩部の遮水性を改良して浸透流を抑制するとともに、コア着岩部付近の割れ目を閉塞することでロックフィルダムの遮水材料であるコア材の流出を防止し、基礎地盤のパイピングによる浸透破壊を防止することができます。
また、着岩部付近ではカーテングラウチングの注入圧力が小さくなるためセメントミルクが隅々まで広がりにくく、このためロックフィルダムにおいてブランケットグラウチングが重要になります。
コンタクトグラウチング
コンタクトグラウチングとは、コンクリートの硬化収縮によってダム堤体と基礎地盤との境界部に間隙が生じる場合があり、これを防止する目的で行うグラウチングです。
重力式コンクリートダムのアバットメント部(ダムが取り付けられる谷の両岸の斜面部分)で急勾配ののり面が長く連続する場合には、コンクリートの硬化収縮によりダム堤体と基礎地盤との境界部に間隙が生じることがあります。
堤体コンクリートの水和熱がある程度収束した段階で通廊等からコンタクトグラウチングを施工します。
ロックフィルダムの通廊周りにおいては、コンクリートの硬化収縮に伴って、通廊と基礎地盤の境界に間隙が生じることがあり、通廊等からコンタクトグラウチングを施工します。
補助カーテングラウチング
補助カーテングラウチングとは、カーテングラウチング施工時に、注入材料となるセメントミルクが漏れ出しやすい基礎地盤において、カーテングラウチングに先行して、カーテングラウチング孔の片側(または両側)から高濃度のセメントミルクを低圧で注入するグラウチングのことです。
補助カーテングラウチングはカーテングラウチングの施工性を高めるために実施するものであり、改良効果の目標値は設定しません。
施工方法
グラウチングの施工方法として、ステージ方式とパッカー方式の2つがあります。
ステージ方式
ステージ方式とは、注入孔を約5mごとに分けて掘削し、注入材料を注入するという作業を繰り返し行い、表層から順次深部へ向かって施工する方式です。
一般的にはステージ方式が採用されることが多いです。
パッカー方式
パッカー方式は、注入孔を全長にわたって掘削した後に、最深部から順次表層に向かって注入材料を注入していく方式です。
注入材料
グラウチングの注入材料は、セメントと水が基本です。
セメントを基本とする理由は、以下の通りです。
- 経済的であること
- 粒子が均等に分散しブリーディングが少ないこと
- 流動性が良好なこと
- 所要の強度を有すること
- 水圧や化学作用に対して安定であること
- 安定的に供給される材料であること
一般的には、普通ポルトランドセメントや高炉セメントB種が用いられることが多いです。
改良効果の検証
グラウチングの改良効果を確認する方法を、グラウチングの種類ごとに解説します。
コンソリデ―ショングラウチング ー 重力式コンクリートダム
遮水性の改良目的のコンソリデ―ショングラウチング
ルジオン値を指標とし、約5Luとする。
※「ルジオン値」の意味は次項で説明でします。
弱部の補強目的のコンソリデ―ショングラウチング
改良目標値はルジオン値または単位注入セメント量によって設定します。
ルジオン値であれば10Lu以下、単位セメント量による場合は地盤の性状や注入圧力に応じて適切な値を設定します。
コンソリデ―ショングラウチング ーアーチ式コンクリートダム
一次、二次の2回に分けて改良効果を確認します。
一次では5Lu以下、二次では2~5Lu以下とします。
カーテングラウチング
ルジオン値により改良目標値設定を行います。
従来、コンクリートダムでは1~2Lu、フィルダムでは2~5Luが基本とされてきました。
一方、地盤の深部では浸透路長が長く動水勾配が小さいため、改良目標値を緩和することが可能です。
深度に応じた改良目標値設定は次の通り計算します。(H:最大ダム高)
- 深度が0~H/2:2~5Lu
- 深度がH/2~H:5~10Lu
ブランケットグラウチング
基本的にはルジオン値で管理しますが、単位セメント量による改良目標値設定を行う場合もあります。
ルジオン値で管理する場合は、一般的には5~10Lu程度とします。
ダム堤体が堤高に比べてコア幅が広いダムでは、改良目標値をコア着岩部で一律に設定せず、コア敷中央部分は5Lu程度、フィルタゾーン付近は5~10Lu以下として設定します。
ルジオン値とは
ルジオン値とは、試験区間における平均的な透水性を示す指標です。
透水係数は自然状態での透水性を測る指標ですが、ダム基礎地盤のように高い水圧下にある地盤の透水性を測る場合にはルジオン値を用います。
ルジオン値の試験方法
ルジオンテストという試験方法により行います。
試験孔を掘削し、10kg/cm2(=約1MPa)の注入圧力で注水を行ったときに次式で計算される値をルジオン値とします。
$$Lu=Q_α/L$$
\(Lu\):ルジオン値(Lu)
\(Q_α\):有効注入圧力1MPaのときの注入流量(\(l/min\))
\(L\):注入区間長(m)
※試験孔の孔径は66mmを原則とします。(簡易試験の場合は46mmのを採用することもあります)
以上、ダム基礎のグラウチングについて解説しました。