親杭横矢板工法と鋼矢板工法は、土留工法で最もポピュラーなものの一つです。
どちらも一定深さ以浅の中規模以下の土留工法に適用される工法です。
「両者には止水性の違いがある」とよく言われますが、止水性の違いの原因となる設計思想や施工方法の違いはご存知でしょうか?
今回はその他の違いを含め、違いが発生する理由を明確に示しながら解説することで、論理的に繋げて理解できるようにまとめてみました。
親杭横矢板工法
親杭横矢板工法とは、まず地盤に土留壁となるべきラインに沿って鉛直に一定間隔で親杭(H鋼)を圧入します。
次に、その内側(掘削範囲)を掘削しながら、都度親杭と親杭の間に横矢板(木矢板)を設置していくことで壁を作る工法です。
この壁が土留壁になります。
※横矢板とは、長方形の板で、それが横長になる向きで親杭となるH鋼のすきまに入れていきます。
親杭横矢板の止水性
横矢板は薄いので、H形にしっかりとハマるように、親杭との間ににキャンバーと呼ばれる三角柱を挟み、さらに空いている空間に裏込めを行います。
裏込め材は透水性の良い材料を使用するのが基本で、そうすることにより土留壁背面の排水を良くします。
逆に言えば止水性を持ちません。
横矢板ははめ込んでいるだけで、横矢板同士や親杭との間は止水しませんので、背面の裏込め材を透過して掘削側に地下水が漏出する可能性があります。
このように、親杭横矢板工法は止水性を有さないため、地下水位が高い地盤においては採用できません。
親杭の最低根入れ深さ
親杭横矢板工法の最低根入れ深さは3mとされています。
親杭の鉛直安定性が土留の安定性に直結する構造のため、3m以上根入れしないと、傾斜する等土留としての不具合が生じるリスクが高いです。
鋼矢板工法
鋼矢板工法とは、鋼矢板もしくはシートパイルと呼ばれる鋼製の板を鉛直に打ち込み、土留壁とする工法です。
鋼矢板は平面的に連続するように打ち込まれます。
鋼矢板は爪を有しており、隣の鋼矢板と爪同士が噛み合うようになっているので、一体として土留壁になります。
鋼矢板を別名シートパイルとも呼び、鋼矢板工法をシートパイル工法とも呼びます。
施工図では、平面図に線として土留壁ラインが描かれており、そこに矢印で注釈として「鋼矢板」や「シートパイル」、もしくは「SP」と略されて記載されてることが多いです。
次項で解説しますが、鋼矢板Ⅳ型の場合は、「SP-Ⅳ」と記載されます。
※SPはそのままシートパイル(sheet pile)の頭文字です。
鋼矢板の型式
鋼矢板には、4型、5型などのように、複数のサイズが存在します。
ここでいうサイズは、単純な寸法ではなく、断面二次モーメントIや断面係数Z等、断面性能に応じた区分けです。
※正確には数字ではなく、Ⅳ型、Ⅴ型のようにローマ数字で表記します。
鋼矢板の根入れ深さの上限値
鋼矢板はプレボーリングを行わず、ハンマー打撃やバイブロハンマーによる振動工法で打ち込みます。
深さが深くなるほど周囲の土との摩擦抵抗が大きくなり、摩擦力が打ち込み力を上回った時点で打ち込めなくなってしまいます。
一般的に、鋼矢板を打ち込み可能な深さの上限値は、型式の5倍の深さだと言われています。
例えば鋼矢板4型(Ⅳ型)であれば、4×5=20(m)の深さまで打ち込むことが可能です。
それを超える深さの土留壁が必要な場合は、型式を一段階上げるか、もしくは地中連続壁工法等を採用します。
鋼矢板の止水性
鋼矢板土留壁は止水性を有すると言われています。
爪による噛み合わせがありますし、鉛直方向に鋼矢板を継ぐ場合には溶接を施すことで、鋼矢板全体が一体として機能し、一定程度の止水性を実現します。
しかし、完全に止水できるかというと不可能であり、どうしても噛み合わせ部から漏水してしまいます。
完全な止水を必要とする場合には、鋼矢板背面地盤に薬液注入工法を施工したり、地中連続壁工法に変更することで、強力な止水性能を付与できます。
静音式鋼矢板工法
鋼矢板は、バイブロハンマーにより振動させながら打ち込むことが多いです。
振動させることで鋼矢板周囲の地盤を緩めて摩擦抵抗を低減して打ち込むことが可能となり、より深く安定した打設ができます。
しかし、親杭横矢板工法のような打撃工法と同様に、騒音が発生しますし、なんなら振動も発生します。
例えば、市街地の地下に構造物を構築する工事で、掘削するために鋼矢板土留を使いたいという場合、周囲の住宅や道路、その他施設を利用する方々に迷惑がかかってしまいます。
住民の方は在宅ワークされている方もいれば、夜勤だから昼間に寝たい方もいらっしゃり、騒音は特に迷惑です。
また、振動があると道路を走るのが不安定になり、歩行障害から思わぬ事故に発展することも考えられます。
そこでサイレントパイラーの出番です。
サイレントパイラーとは、騒音と振動を抑えた上で鋼矢板を打ち込む機械です。
工事現場では、騒音は85dB以下、振動は75dB以下とするよう規定されており、これを満足させ、市街地での第三者影響を極力抑制するために使用します。
以上親杭横矢板工法と鋼矢板工法の違いをまとめてみました。
これらはあくまでも代表的な違いだけですので、実際に施工する際には、使用する機械や人工、歩掛りなど、ご自身で記録しておくのがよいです。
一級土木施工管理技士や技術者など、試験で問われる際には今回説明したところを押さえておけばまず問題ないでしょう。