技術士は、問題に対して、解決策を提示すると同時に、それが最適な策であるということを評価する必要があります。
それは検討途中段階において、他の解決策案より優れていることを証明して採用する理由とする場合もありますし、その解決策を実施した後にも評価を行い、修正が必要か判断したり、今後他のプロジェクトについて同様の問題が発生した場合にもっと良い解決策はないかと改善を試みる場合にも有効です。
今回は技術士二次試験対策として、技術士に求められるコンピテンシーの一つである「評価」を解説していきます。
評価の定義とは
技術士に必要な資質を、「コンピテンシー」と呼びます。
コンピテンシーには問題解決、リーダーシップなど計8項目があり、その中の1つが「評価」です。
評価は幅の広い言葉ですので、そのままだと意味を捉えるのが困難です。
しかし、技術士試験における「評価」は、一般的な評価よりも狭い定義となっており、それは定義を見ると明らかです。
技術士会から公式に明記されている定義は以下のとおりです。
想定質問
想定される質問形式は以下の通りです。
- 「評価の観点から業務経験を教えてください」
- 「評価の観点で業務詳細について教えてください」
- 「〇〇の解決策について、どのように評価してその解決策を採用したのですか?」
- 「業務詳細に記載の解決策について、その解決策を実施した上で生じた課題はありましたか?」
- 「お話しされた業務において採用した解決策を、改善するとしたらどこを改善しますか?」
1は、直接的に評価経験を問う質問形式ですが、実際にはこの形式で問われることはほとんどありません。たいていは他の項目(リーダーシップ等)に対する解答を踏まえて、その解決策を評価させるような質問形式で問われます。
2では、業務詳細に記載した業務の中に限定して評価経験を聞いています。評価に限らず、リーダーシップやコミュニケーション、マネジメントに関しても、業務詳細に記載した内容について聞かれることが多いので、業務詳細に関連づけたエピソードを一つ用意しておくのがおすすめです。
3は、解決策を実施する前段階での評価を問う質問です。ここでは、他にも検討していた解決策案と比較した時に、どのような観点からその解決策を採用するに至ったのか、検討プロセスを答えます。
4は、解決策を実施した後の段階における評価を聞いています。PDCAのC(チェック)のことです。ここでは、解決策を実施した上で解決しきれなかった問題や解決策を実施したことでむしろ新たに生じてしまった課題等を話し、それに対して追加の解決策としてどういうものが有効と考えられるかを答えます。
5.は4と同様に事後評価に関する質問です。4はその解決策で解決しきれなかった課題、5はそれを踏まえて次の機会にどのような改善が必要か、を問うています。4,5は合わせてセットで問われることもありますので、両方の内容を網羅するような解答を1つ準備しておくのがおすすめです。
解答のコツ
技術士二次試験の口頭試験で評価について問われた際、どのように解答するのが良いのでしょうか?
先述のような質問項目に対する解答を考えていきます。
提案に対する評価、実施後の評価がありますが、ここでは両方について解答のコツを解説していきます。
それでは解答のポイントを整理してみていきましょう。
複数の検討ケース
技術士の扱う問題は、様々な要因が絡む複合的な課題です。
複合的な問題においては、一つの要素を改善した場合に、他の要素が悪化してしまうという、トレードオフの関係が発生しています。
その場合には、どの要素にどれだけの資源を配分して、すべての要素を最適に改善する選択ができること(マネジメント能力)が技術士に求められます。
そこで「評価」の能力が必要になります。
複数の資源配分ケースについて検討を行い、その結果を比較、すなわち評価して最終的な解決策を選択します。
そのように、複数の検討ケースを設定し、それをどのような観点で比較、分析して、どういう理由から最終的な解決策を選択したのか、ということがまさに「評価」であり、これを述べるようにします。
波及効果を予測
検討途中における評価において、その解決策を実施することによって問題が改善する一方で、他の要素が悪化したり、所定の要件を満たすことができないことがないか、波及効果を予測することが必要です。
例えば、品質確保とそれによる工程遅延が懸念される状況があったとします。
そこで品質確保のために、品質のダブルチェックをするための人員を増加させる対応をとったとします。
しかし、同時に発生していた工程遅延という問題は以前として残っていますし、人件費によるコスト増加が新たな課題として発生します。
このような波及効果を事前に予測し、予防や対策を事前に準備する、またはそもそも別の解決策を採用するなど、検討途中の評価によってできることはたくさんあります。
検討途中の段階でどのように評価してその解決策に至ったのか、その検討プロセスを説明することで評価能力をアピールすることができます。
絶対評価はあり得ない
技術士が行う評価とは、決して絶対評価ではありません。
絶対評価というのは、一つの解決策があって、それが是が非かを一概に判断することはできません。
技術士が扱う複合的な問題に対しては、品質、予算、工期など複数の要件とそれを構成するよりミクロな条件たちについて、様々な解決策のパターンがあり、その中からより優れたものを相対評価で検討していきます。
つまり、評価の過程においては必ず複数の検討ケースや他現場等の比較対象がありきなのです。
相対評価であることを念頭に評価経験を考えてみてください。
「良い評価」と「悪い評価」の違い
経験を振り返ると、必ずその解決策が正解だと断言できないけど実施したということがあると思います。
解決策はいくつもあり、技術者によって正解とする選択肢も変わるものですので、それは仕方ないことです。
技術士二次試験においても、その解決策が絶対的な正解だったかということを問うことはありません。
口頭試験において問われるのはあくまでも評価能力であり、解決策を導き出すまでの検討ケース選定やそれらの比較検討手法(比較項目の選定、比較の仕方)です。
つまり、「良い評価」とは、評価過程が合理的でかつ説明性が高いことです。
逆に「悪い評価」とは、評価過程が理に適っておらず、試験官への説明が難しいような評価手法のことです。
解答例文
口頭試験の解答は個別の経験に基づくものなので、解答例テンプレートとまでは言えませんが、以下のような文章構成に沿って答えるとよいです。
解説していきます。
ポイントは6つです。
- 業務詳細に関連付ける
- クリティカルパスの特定
- 複数の検討ケース
- 波及効果の予測
- 負の影響の最小化
- 今後の業務への適用
業務詳細に関連づける
業務経歴書の720字の業務詳細欄に記載した業務経験について述べると、面接官も事前にその業務の背景等を理解しているため、説明がしやすいです。
また、「業務詳細の内容について、評価した経験を教えてください」のように、業務詳細に記載した内容に限定した質問をされる場合もあります。
限定されるのは基本的に業務詳細についてのみなので、業務詳細に関連した評価経験エピソードを準備しておけば1つ用意するだけで済むのでおすすめです。
クリティカルパスの特定
問題が起きた際に焦って解決を急いではいけません。
解決の前には解決策の想起と評価が必要ですし、その前段階として問題の分析と課題抽出が必要不可欠です。
クリティカルパスの特定は問題の分析にあたります。
その問題がどれほどの肯定インパクトを持っているのか、最も解決すべき課題は何なのか、それを分析するわけです。
複数の検討ケース
「工程表を複数ケース作成」して比較検討をしたという点が評価そのものです。
先述の通り、技術士が扱うような複合的な問題に対しては、絶対評価で語ることはできません。
複数のケース設定を行った上で、それらのメリットデメリットを踏まえて要求事項を満たす最適解はどれか評価を行うのです。
可能であれば、「品質、コスト、工程、手戻りの4項目について比較表を作成した」というような具体的な実施内容を記載すると面接官もイメージしやすく伝わりやすくなります。
波及効果の予測
技術士に求められるコンピテンシーにおける評価の定義を見ると、業務における成果だけでなく、波及効果を評価することも含むと書かれています。
波及効果とは、解決策を実施しても依然として残ってしまう課題や、解決策を実施することで新たに生じてしまう別の課題のことです。
解答例でいうと、「コストの増加」があたります。
波及効果を事前に予測し、その予防や発生した際の対策も事前に準備した上で解決策を実施する、その流れに沿って評価能力をアピールするのがベストです。
負の影響の最小化
波及効果として、少なからず負の影響は発生します。
負の影響がある解決策を採用してはいけないのではなく、負の影響を事前に評価し、対策を講じておくのが技術士です。
解答例では、「コストの増加」が負の波及効果といえます。
負の影響に対して、隣工区との資材転用という予防措置を取った上で解決策を実施している、というのが、しっかりと波及効果の評価を行うことができているというアピールになるわけです。
負の影響も隠さずに述べることが評価をアピールするのがコツです。
今後の業務への適用
解答例には含まれていませんが、文章が長くなりすぎない範囲であれば、今後、他の業務についても同様の評価手法が適用できることを述べておくといいでしょう。
なぜなら、評価の定義の中に「次の段階や別の業務の改善に資すること」という文言があるからです。
もちろん、文章が長くなりすぎる場合(解答は1〜2分以内で答えられる長さにしましょう)には、解答例と同じように当該業務の範囲についてのみ答えておき、その後の質問で聞かれたら別業務にも適用できることを伝えるのが良いでしょう。
言い方としては、「その後のコンクリート打設においても、悪天候の場合の計画を事前に立てて隣工区との資材調整をしながら進めるようにしたことで工程遅延が少なくなりました」という感じです。
まとめ
技術士二次試験の口頭試験における評価に関する解答方法について、ポイントをおさらいしましょう。
- 複数の解決策を想起し、それぞれのメリットとデメリットを評価して最適解を探します。
- 評価の意義は、解決策の実施による影響を事前に予測し、その成果や影響に対する予防や対策を事前に準備することにあります。事前に影響予測を行い、対策を講じた経験を述べます。
- 技術士が扱うのは複合的な問題であり、絶対評価はあり得ません。その前提のもとで、相対評価によって複数の候補の中から合理的に解決策を導く過程を述べましょう。
- 絶対的に正解の選択肢はありません。「良い評価」とは、合理的で説明性の高い選択プロセスのことです。
- 業務詳細に記載した経験に限定して評価経験を問う質問をされる可能性があります。業務詳細に関連した評価経験エピソードを1つ準備しておいてください。
- 「評価」の定義に従い、事後評価の結果を次の段階や別業務の改善に応用した経験を付け加えるとベターです。
以上、今回は技術士二次試験の口頭試験で問われる評価能力について解説しました。
その他にも口頭試験ではコミュニケーション、リーダーシップ、マネジメントに加え、技術者倫理と継続研鑽も評価対象となっていますので、ぜひそちらの記事もチェックしてみてください。