技術士二次試験の解答例テンプレートを紹介します。
今回のテーマは、「カーボンニュートラル」です。
脱炭素社会、再生可能エネルギー、省エネなどの言葉はよく耳にするのではないでしょうか?
一方で、建設業界での実務としては、直接利益につながるものではなく、なんとなく曖昧なままにしている方が過半数だと思います。
筆記試験では、ご自身の理解度が文章に表れてしまいます。
この記事を読んで頂ければ、環境問題を具体的にイメージでき、文章の説得力がぐっと良くなりますよ。
もちろん、以下で紹介するテンプレートをゲットして、合格まで最短距離で進んでください。
問題文
世界の地球温暖化対策目標であるパリ協定の目標を達成するため、日本政府は令和2年10月に、2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言し、新たな削減目標を達成する道筋として、令和3年10月に地球温暖化対策計画を改定した。また、国土交通省にといては、グリーン社会の実現に向けた「国土グリーンチャレンジ」を公表するとともに、「国土交通省環境行動計画」を令和3年12月に改訂した。
このように、2050年カーボンニュートラル実現のための取組が加速している状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 建設分野におけるCO2排出量を削減するための課題を多様な観点から3つ述べよ。
(2) 抽出した課題のうち一つを取り上げ、それについて解決策を述べよ。
(3) 上記解決策を実施した上で新たに生じるリスクとその対応策について述べよ。
(4) 上記の業務遂行にあたり、技術者として必要となる要件や留意点について述べよ。
※令和4年度技術士二次試験を元に作成
必要な知識
解答文章テンプレートを見る前に、まずは解答のポイントを整理しましょう。
解答にはカーボンニュートラルに関連して、少なくとも以下の知識が必要となります。
- 再生可能エネルギー
- 省エネルギー
- 次世代エネルギー
- 洋上風力発電
- 小水力発電
- バイオマス発電
他にも課題や対策は考えられますが、今回は上記の課題を挙げて対策を考えることにしました。
骨子
再生可能エネルギー
石炭を用いる火力発電等、化石燃料を使用する従来の発電方式に対して、再生可能な燃料を用いる発電方法によるエネルギーを再生可能エネルギーと言います。
具体的な例を挙げていきます。
太陽光発電
太陽光パネル(ソーラーパネル)が太陽光を受けてエネルギー変換して発電する方法です。
2009年から旧FIT制度(固定価格買取制度)が始まり、太陽光発電の導入が促進されています。
FIT制度とは、10年間以上にわたり、太陽光発電による電力を、電力会社が一定価格(比較的高額)で買い取ってくれる制度です。
この制度はにより、太陽光パネル設置費用などの初期費用を早期に回収でき、太陽光発電を導入する事業者や個人が増加しました。
洋上風力発電
風車が風の力を借りて発電するもののうち、洋上(海の上)に設置させるものを言います。
洋上では、陸上に比べて、大きな風力を安定して持続的に得ることができます。
海だと、風を邪魔するモノ(木や建物など)が無いので大きな風が得られる、というのは理解しやすいですよね。
洋上風力の構造は、一般的には海底に根を刺して支持する構造(モノパイル工法)で、クレーン船を使います。
クレーン船は、クレーンがついた船のことです。
日本のゼネコン各社が洋上風力発電に躍起になっており、特に最近はより大きな風車がトレンドで、そのために世界最大級のクレーン船を造った会社もあります。
小水力発電
小水力発電は水力発電のミニチュア版です。
マイクロ水力発電、小規模水力発電とも言います。
水力発電は、ダムなどで大量の水を放流して位置エネルギーによって水車を回して発電する発電方法です。
一方、小水力発電は、これを河川など小規模な水量、落差の場所で行います。
また、小水力発電は水量が少なくていいので、わざわざダムなどに溜め込んでから一気に放流する必要はなく、河川などでは溜めずに流しっぱなしのまま発電することができます。
バイオマス発電
バイオマスによる発電方法です。
そうすると、「じゃあバイオマスとは?」ってなりますよね。
バイオマスとは、生物から生み出されるエネルギー資源のことです。
例えば、トウモロコシから作った自動車の燃料でバイオエタノールがあったりします。
バイオマス発電では、バイオマスを燃焼させたり発酵させたりして発電します。
ここで、燃焼させると二酸化炭素が出てきて、「カーボンニュートラルとは逆行してない?」と疑問を感じますよね?
例えば間伐材(木材)を考えると、木が光合成して成長する過程で大気中の二酸化炭素を吸収しています。
それを燃焼したときには、吸収した二酸化炭素を大気中に戻しているだけで、追加の二酸化炭素を発生させているわけではありません。
つまり、大気中の二酸化炭素量(カーボン)としてはプラマイゼロ(ニュートラル)、というわけです。
ちなみに発酵による方法は、バイオマスをメタン発酵させてできるメタンガスを燃料として使用するものです。
省エネルギー
火力発電などのエネルギー生成では二酸化炭素を排出します。
省エネの取り組みは、事業活動や生活に使用するエネルギー量を減らす、すなわちエネルギー需要を減らすことで供給量も減らし、エネルギー生成に伴う二酸化炭素排出量を減らす取り組みです。
運輸や民生(家庭内の消費)部門は、エネルギー消費ベースでCO2排出量の5割を占めており、ここの省エネを進めることが有効です。
具体的な対策としては、運輸部門であれば、公共交通の利用促進やグリーン物流の促進があります。
民生部門であれば、ZEBやZEHの推進があります。ZEHは、住宅の消費エネルギー性能の高さを示すものです。
読み方はZEB(ゼブ)、ZEH(ゼッチ)です。
次世代エネルギー
水素エネルギー等の次世代エネルギーは、馴染みのあるところでは自動車燃料として活用が進められています。
水素はアンモニアの形で輸送し、水素に再変換してから利用するのが現段階ではメジャーです。
再変換することなく、アンモニアを直接燃料とするアンモニア燃料も研究が進められていますが、ここでいう次世代エネルギーは、水素エネルギーのみを対象として話を進めていきます。
次世代エネルギーの普及に向けては、エネルギー輸送の要となる港湾分野における技術開発、実用化、導入が重要になってきます。
港湾ではエネルギーを大量輸入、貯蔵、利活用ができるので、港湾機能の高度化による脱炭素化を推進し、カーボンニュートラルポートの形成を進めることが課題です。
解決策
洋上風力発電
海洋基本計画において、港湾が洋上風力発電を導入する適地とされており、洋上風力発電施設の建設を進めるにあたり、港湾がの改良が重要です。
改良を進める港湾はインフラが整備されている港湾として、建設や維持管理の基地とします。
施設建設に当たっては、自然条件はもちろんですが、洋上の開発になるため、漁業や海運業などに支障が及ばないかも確認する必要があります。
上記の条件を満足した場所を促進区域として指定して開発を進めていきます。
また、洋上風力発電は計画から施工、運用期間まで長期にわたり、かつ広範囲の空間を、特定の事業者に排他的に与えることになります。
そのため、公共の利益の増進を図る上で、公正な手続きによる事業者選定が求められます。
という内容が占有公募制度に記載されており、公募に基づく事業者選定が技術士二次試験的にもキーワードになってきます。
小水力発電
農業用水などは、既に水利利用が許可されているもので、このように既存の水流を利用した小水力発電を従属発電と呼びます。
既存の水流を活用するため、本来は導入が容易なはずですが、手続きの複雑さから敬遠されていました。
具体的には、同じ水利利用でも、利用用途が農業と発電で異なるため、改めて利用許可の手続きが必要でした。
そこで、平成25年から登録制という手続きの簡易化がなされ、導入促進が図られています。
また、砂防堰堤など小水力発電に適切な施設における導入支援も有効です。
地域バイオマス発電
バイオマス発電のキーワードはここでは2つ扱っています。
一つは、人口減少に伴い、下水道処理場に余裕能力が発生するしますが、これを有効活用しようという点です。
特に中小規模の処理場でも、様々な種類の地域バイオマスを集約することで効率的にエネルギー利用が可能です。
二つ目は、バイオマスを発酵させて発電した後に残った汚泥についても、固形燃料として活用する点です。
リスクと対策
国民の理解
再生エネルギー利用による環境負荷低減効果が確認できるのは後々の話で、直近では風力発電設備などの建設が国民の目に映ります。
そのため、むしろ自然を壊してモノを作っているのを、環境破壊だと感じてしまう方もいます。
どのような成果のために建設が必要なのか、しっかりと説明することが重要です。
また、環境問題は全ての人々が同じ方向を見て取り組んで行かなければ変えられない課題です。
国民全員が納得し、一緒に進んでいけるような啓発等の推進が有効です。
長期的視野
再生エネルギーの実用化等の取り組みは一朝一夕に結果が出るものではありません。
その過程において、コロナ禍のように、技術や社会が大きく変化する可能性は十分にあります。
常に最新情報にアンテナを張り、PDCAによる計画の見直しと実行を繰り返すことで、時代の流れにマッチしたものとすることができます。
ちなみにPDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(対策)のことで、計画を定期的に見直しながら進めていくという意味です。
一般的なビジネス用語ですので、技術士試験では解説なしでPDCAとだけ書けば採点者も理解してくれます。
解答例テンプレート
上記を踏まえた解答例テンプレートがこちらです。
(必須科目Ⅰまたは選択科目Ⅲは答案用紙600字×3枚です)
(1)課題
1.再生可能エネルギーの利活用推進
エネルギー基本計画に基づき、再生可能エネルギーの導入を推進することが求められており、洋上風力、小水力発電、下水道バイオマス、太陽光発電の再生可能エネルギーの利活用が課題である。
2.省エネルギー対策
CO2排出量をエネルギー消費ベースで約5割を占める運輸部門・民生(家庭・業務)部門におけるCO2排出量削減が重要である。そのため公共交通の利用促進、グリーン物流の促進、住宅の省エネルギー性能の向上を図るZEH等の普及が課題である。
(3)水素等次世代エネルギーの利活用拡大
港湾分野等において、民間事業者と連携した水素等次世代エネルギーの技術開発、実用化・導入促進が重要である。港湾分野ではエネルギーの大量輸入・貯蔵、利活用を図るとともに脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化を通じてカーボンニュートラルポートを形成することが課題である。
(2)解決策(1.再生可能エネルギーの利活用推進について述べる。)
1.洋上風力発電の導入
洋上風力発電は陸上に比べてより大きな風力を持続的に得られるため、安定的に大きな電力供給が可能になる。港湾は、管理の仕組みやインフラが整っており、建設及び維持管理の基地となる港湾を指定し、その改良を進めることが必要である。自然的条件が適当で、漁業や開運業等の先行利用に支障を及ばさないなどの条件を満たす促進区域の指定、公募に基づく事業者選定等を進める。
2.小水力発電の推進
河川等における再生可能エネルギーの導入促進に向けた取組みとして、小水力発電の導入を推進する。登録制による従属発電の導入促進、現場窓口によるプロジェクト形成支援、砂防堰堤における小水力発電の検討についての情報提供等の技術的支援及び小水力発電設備の導入支援、直轄管理ダム等においてダム管理用水力発電設備の積極的な導入による未利用エネルギーの徹底的な活用を図る。
3.地域バイオマスの活用
今後の人口減少に伴い生じる下水道処理場の余裕能力を活用し、生ゴミや刈草、家畜排せつ物、食品系廃棄物等、地域バイオマスを集約することで、中小規模の下水処理場でも効率的なエネルギー利用が可能となる。家庭から出る生ゴミの分別収集し、下水汚泥及びし尿・浄化槽汚泥と合わせてメタン発酵させ、発生するバイオガスを発電によりエネルギーとして活用するとともに、発酵後に残った汚でいは固形燃料として利用する。
(3)リスクと対策
1.国民の理解
再生可能エネルギーの敷設建設等に対して、環境破壊等の懸念から国民に反対されるリスクがあり、地域住民等に丁寧な説明を行い、理解を求める必要がある。
省エネルギーの取組は企業・国民の行動変容が必要であり、啓発、インセンティブの付与を実施していく必要がある。
2.長期的視野
再エネルギー化の取組みによる目標達成には時間がかかるため、その過程で技術動向や世界情勢は予見しがたい形で大きく変動する恐れがある。最新の技術動向と情勢を定期的に把握し、取組み内容を年度ごとにチェック、修正、加速化するPDCAの仕組みを構築し、長期的視野に立った施策展開に努める必要がある。
(4)必要となる倫理
1.技術者としての倫理
建設する施設は公益確保を最優先に設計、施工を行う。新技術の採用に当たり、公衆の安全、品質確保のために関連法令や各種基準・規格を熟知して業務を遂行する。万一、設計施工上のミスが発生した場合は、依頼者に対応策を提案し、真摯に解決を図る。
2.社会の持続可能性
環境負荷低減、施設の長寿命化に配慮した材料の使用、設計を行う。建設時、排出ガス基準値を満たした建設機械の使用や建設副産物の適正処理に努める。
なお、得点に繋がる用語を太字で示しました。技術士試験はキーワードに基づいた加減点方式と言われており、得点に繋がるキーワードを入れ込むことが重要です。
以上、今回は技術士二次試験の課題ⅠやⅢの頻出問題である環境問題のうち、カーボンニュートラルについて解説とともに解答テンプレートを紹介しました。
他の課題についても解答テンプレートを紹介していますので、ぜひ関連記事欄からチェックしてみてください。