今回も技術士二次試験で丸ごと使える解答例テンプレートを紹介します。
今日のテーマは「建設DX」です。
技術士試験の必須科目Ⅰまたは選択科目Ⅲにおける頻出問題です。
問題文
我が国では、技術革新や「新たな日常」の実現など社会経済情勢の激しい変化に対応し、業務そのものや組織、プロセス、組織文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立するデジタル・トランスフォーメーション (DX)の推進を図ることが焦眉の急を要する問題となっており、これはインフラ分野においても当てはまるものである。
加えて、インフラ分野ではデジタル社会到来以前に形成された既存の制度・運用が存在する中で、デジタル社会の新たなニーズに的確に対応した施策を一層進めていくことが求められている。
このような状況下、インフラへの国民理解を促進しつつ安全・安心で豊かな生活を実現するため、以下の問いに答えよ。
(1) 建設DXに関する課題を多様な観点から3つ述べよ。
(2) 抽出した課題のうち一つを取り上げ、それについて解決策を述べよ。
(3) 上記解決策を実施した上で新たに生じるリスクとその対応策について述べよ。
(4) 上記の業務遂行にあたり、技術者として必要となる要件や留意点について述べよ。
※令和4年度技術士二次試験を元に作成
必要な知識
解答文章テンプレートを見る前に、まずは解答のポイントを整理しましょう。
解答には建設DXに関連して、少なくとも以下の知識が必要となります。
- 行政手続きのデジタル化
- 情報活用
- 現場のデジタル化
- 施工の遠隔化・自動化・自律化
他にも課題や対策は考えられますが、今回は上記の課題を挙げて対策を考えることにしました。
骨子
行政手続きのデジタル化
住民票の移動などで、わざわざ平日に休みを取って市役所に行くことも多いですよね。
最近はオンラインでできる手続きも増えてはいるものの、紙での提出が基本とされているものがまだまだあります。
建設プロジェクトも同様です。
図面や施工計画などを紙で受け渡すことが必須だったりします。(電子データで渡した場合でも、紙で同じものを提出しなければいけない)
この辺りのリモート化、ペーパーレス化が課題です。
また、再びコロナ禍となった場合には、手渡ししないことが事業継続でき観点で重要です。
すなわち、タッチレス化です。
また、同じ書類を複数の部署に提出する必要があり、これを一度に複数相手に送付できたり、その履歴やデータを管理できるツールや手続きの簡素化が求められています。
情報活用
建設現場の施工、もしくは設計計画段階において、3次元モデルを用いることが多くなってきています。
さらに、ARやVRでそれらを可視化した説明会や安全活動も実施されています。
このような新たな情報の形をうまく活用していけるかが建設DXの要です。
BIM/CIMによって作成する3次元モデルは、各要素に名前や材質などのメタデータを付与することができるため、モノの形状以上の情報を円滑に共有することができます。
現場のデジタル化
やはりデスクワークである計画や設計段階に比べて、外出るモノを扱う現場作業のデジタル化は非常に困難で遅れています。
求められているのは、「遠隔化(無人化)」「自動化」「自律化」です。
遠隔化は、オペレーター(人間)が現場から離れた場所からICT建設機械やロボット等を操作して、現場に行かずに施工を進めることです。
自動化は、定期的な測量ルートなどのプログラムが予めセットしたドローン等により測量を実施することで、その時その場所に作業者がいなくても作業を進めることができることを指します。
自律化は、AIによって必要な処理を自律的に計画して作業させるもののことです。
5Gの発達によりトンネル坑内や地下でもネットワークの利用が可能になったことも関連するキーワードとして挙げられます。
習熟度向上教育
デジタルや新技術を扱う人材は、一定の技術力が求められます。
そこで、定期的に習熟度向上教育を実施して、スキルの向上と定着を図ることが必要です。
シーズとニーズのマッチング支援
新技術については、シーズ(提供する側)とニーズ(受け取る側)のマッチングがうまくいっていないことが問題となっています。
新技術を活用した事例をデータベース化し、マッチングを促進することが求められています。
ICT導入費用の補助
ICTの利用やプレキャスト部材化、新技術の活用などの生産性向上施策は、導入にあたって時間とお金がかかります。
一度技術が普及してしまえば、利用方法も経験的に理解できて短時間で導入できるようになりますし、需要が増えれば費用も安くなります。
その前段階としては、導入にかかる費用を見込んだ積算基準の整備や補助金の支給、及び適切な工期設定により、DXや生産性向上を推進することが有効です。
解答例テンプレート
上記を踏まえた解答例テンプレートがこちらです。
(必須科目Ⅰまたは選択科目Ⅲは答案用紙600字×3枚です)
(1)課題
1.行政手続きのデジタル化
インフラ分野に係る各種手続きのデジタル化推進や、WEBシステムを活用した手続きのリモート化、ペーパーレス化、接触を減らすタッチレス化が課題である。デジタル上の手続きでは、必要なデータの表示や実際の申請を即時に処理可能なシステムの開発や、複数部署への提出書類の一元管理等、煩雑なプロセスの簡素化が課題である。
2.情報の高度化と活用
3次元データによる関係者間における正確でリアルなコミュニケーション推進のため、BIM/CIMによる3次元データの流通や、XRの活用、WEB会議システムの活用、インフラデータの公開・活用の促進が課題である。国民に対しても3次元データを用いた効果的な情報伝達や広報が課題である。
3.現場作業のデジタル化の推進
建設現場の各種作業の遠隔化・自動化・自律化技術の開発、社会実装の推進が課題である。そのための各種技術基準の標準化や開発環境・プラットフォームの整備が課題である。
(2)解決策(3.現場作業のデジタル化の推進に関する解決策を述べる。)
1.3次元データの活用
BIM/CIMによる3次元データを計画施工段階から施工、維持管理・更新、撤去まで活用することで、施工時の手戻り防止、地域住民への情報展開や広報に活用する等、情報共有の促進を図る。レーザープロファイラやドローン調査に基づいた斜面の崩壊予測等の精度向上を図るとともに、3次元点群データを用いた鉄道施設点検システム等の開発を推進する。
2.新技術の開発
AI・ロボット等革新的技術の導入や建設施工における人間拡張にかかる技術開発・導入の推進、建設DX実験フィールドを活用した基準整備・研究開発の推進を行う。AI・ICT・新技術を用いた道路の点検・維持管理の高度化・効率化を行う。そのための各種基準類の標準化や開発環境の整備、プラットフォームの整備を行う。
3.遠隔化・自動化・自律化
衛星測位を活用した高精度の遠隔操作・自動化水中施工システムの開発を行う。5G・AIを活用した無人化施工による災害復旧の迅速化を行う。ウェアラブルカメラを用いた遠隔立会により、発注者・受注者双方の移動に伴う労力・時間ロスを低減する。また、録画することで将来の不可視箇所の記録とする。テレビ会議システムによるリモート打合せや遠隔での現場巡回を行う。
(3)リスクと対策
1.人材不足
地方公共団体や民間中小企業における3次元データやICT、新技術を扱う人材の不足が懸念される。研修や講習会のための費用や人材補助の導入、定期的な習熟度向上教育の実施を行う。
2.予算の制約
地方公共団体や民間中小企業における3次元データや新技術を扱う人材不足に伴い、生産性向上施策の導入が促進されないリスクがある。導入補助金の支給を行うとともに、ICT等の導入にかかる費用を見込んだ積算基準の整備を行い、また、導入を考慮した適切な工期設定を行う。
3. 関係者間の調整
計画設計段階からの3次元データの活用や新技術活用にあたり、各関係者間のやり取りや流れが活用前から変化し、関係者間のコミュニケーション不良が懸念される。採用技術の明示や新技術活用事例のデータベース化・展開し、プロセスを明快にする。
(4)業務遂行にあたり、技術者としての要件や留意点について
1.技術者倫理
常に公益の確保を意識しながら遂行する。
現地の法令・ルールを十分に調査して遂行する。
2.社会の持続可能性
実施に伴う環境への影響を最小限とするよう材料や工法剪定、転用計画を行う。
ライフサイクルコストやメンテナンス性を考慮した技術選定を行う。
なお、得点に繋がる用語を太字で示しました。技術士試験はキーワードに基づいた加減点方式と言われており、得点に繋がるキーワードを入れ込むことが重要です。
以上今回は技術士二次試験の課題ⅠやⅢの頻出問題である建設DXについて解説するとともに解答テンプレートを紹介しました。
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